大切な時間
佐々木さんと約束した日曜はすぐにきた。
今日は二人で映画に行くことにした。映画の選択は佐々木さんにまかせたんだけど、彼女が選んできたのは濃ゆい恋愛物だった。

―「私といたらだめになってしまうわ!」
主役の女性が泣きながら叫ぶ。

―「おまえじゃなきゃだめなんだ!何度言ったらわかる?」
同じく主役の男が女を抱き締めて言う。

そして抱き合ってキス…

映画館の中の感動は最高潮に高まっていた。

隣の佐々木さんは啜り泣いていた。

でも俺には泣けなかった。
俺が実際好きな人とこんな状況になったらつらくてしょうがない。
みんな他人事だからこうやって感動して、泣いて、「いい話ね」って言えるんだ。

映画館を出て俺達はファミレスに入った。

「あのシーンめちゃくちゃよかったよね!」
佐々木さんは興奮して言葉をマシンガンのように出す。それに合わせて俺も話しだす。

「あ、太一君、私のことは礼美って呼んで」
佐々木さん…礼美は首を傾けて言う。

「ねぇ、太一君はどうして私の誘い受けてくれたの?」
礼美が無邪気に聞いてくる。ここで”誘われたから”等とは言ってはいけないのだろう。

「礼美ちゃんが誘ってくれたからだよ」
と俺は笑顔で答える。
それじゃ答えになってなーい。と礼美は口を膨らませて言ったけど、なぜかその言葉が嬉しかったらしくずっとニコニコしていた。

礼美はサッカーが好きらしく、サッカー部を引退した俺とはかなり話が弾んだ。

「今度サッカー観に行こうよ!」
という約束もした。
話はほとんどサッカーの話で、昼飯を食べにきたのにいつのまにか時計は午後の5時を過ぎていた。

外を見るともう辺りは薄暗くなっていて、それが夏の終わりを感じさせた。

「じゃあ太一君またね!」
と手を振る礼美。

「駅まで送るよ?」
と言うと礼美は少しはにかんで下を向いた。
礼美ってかわいいかもな。嬉しそうに顔を赤らめている礼美を見ながらふとそう思った。
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