女子高生夏希のイケメン観察記
「ねねね、寝たんですか?」

動揺のあまり声が裏返る。
でも、あれだよね。
本当にそうだったら、まさか昨夜がはじめてってわけじゃないわけで。

その、あれ?
私、ハナから叶わぬ恋をしていたってことになりませんか?


花束を作るときに出来る、屑を片付けていた奏さんが眉を潜めて顔をあげた。

「昼間っから人の店先で、下ネタトークはやめてくれる?」

まただ。
本当、一言でピキっと空気を凍らせるのが、得意なのね、奏さんって。

その、普段は滅多に見られない鋭い視線が私に突き刺さる。

「なっちゃんもよく考えたら分かるだろう?
 久遠が本気で気に入ってたら、わざわざ別の屋敷に智を住まわせるわけないじゃない」

……は、はぁ。

私が疑心暗鬼な表情を久遠さんに向けると、彼は余裕の笑みをその口許に浮かべて見せた。そうして、ことさらに形の良い瞳を煌かせた。

「夏希、そんなに興味があるなら、今夜思い切ってうちに来る?
 夏の思い出にぴったりのめくるめ……」

「……久遠。
 美味しい紅茶でも飲んで来たら?
 今すぐに」

久遠さんの口説き文句は、奏さんによってあっさり止められる。
そして、その背中を押して店の外へと出されて行った。
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