女子高生夏希のイケメン観察記
「智さん、助けてくださいっ」

私はドラマでも見るように、他人事のように私たちを眺めている智さんの着物を掴んで頼む。

智さんは、僅かに相好を崩した。

「夏希ちゃんは、魔性の女なんだね」

……多分、違うと思います。

「じゃあ、奏さん。
 お客様もこられないようなので、私、行ってきますね」

私は智さんを掴んだまま、奏さんに告げる。

「気をつけて行ってらっしゃい」

柔らかい声が、意外にも、純粋に優しさの塊のように聞こえたので、私は思わず振り向いた。
さっきまでの行為なんてなかったかのように、奏さんはにこりと笑っていた。

視線が絡むと、その形の良い鳶色の瞳で私を見つめる。

「行ってくるって言ってる位なんだからさ、ちゃんと帰っておいでよ」

「……はぁい」

その優しさが、塩水のようにツクンと、私の心の傷にしみた。
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