女子高生夏希のイケメン観察記
11.ドライブ先は「行きつけの……」
「夏希ちゃんってさ、良い名前だね」

耳に心地良い低い声で、智さんがぽつりと呟いた。

「え?」

私は驚いて、顔をあげる。
智さんは、極上の笑顔をその口許に浮かべていた。

「一夏さんの希望、なんでしょう?
 なんか、温かい家庭だったんだろうなーって。
 名前だけで伝わってくるよ」

雰囲気を変えるために、そんなエピソードを持ち出してくれるのかしら。
その優しさに、胸がくすぐったくなってきて、私も薄い笑みを浮かべることができた。

「智さんは?」

「俺?
 俺の名前には、そうだな。
 聞くも涙、語るも涙の辛いエピソードがあるんだよ」

内容とは裏腹の軽い口調で智さんが言う。

えっと、智さんの本名って、真田智保(さなだ ともやす)だったわよね、確か。

「それって、聞いても?」

「もちろんさ。
 俺、生まれるまでずっと女の子だと思われててね」

くすり、と。
智さんが笑う。

「チホって名前にしようとしてたんだって。
 でも、実際男だったわけじゃない?
 折角金払って画数まで見てもらったのに、名前を変えるのは嫌だという親父の暴言で、読み仮名だけを急遽変更」

「……え?」

「ね? 適当にもほどがあるっていうエピソードだろう?」
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