女子高生夏希のイケメン観察記
「……え?」

その声に弾かれたように私を見たのが、隣で私の手を握っていた彼だった。
視線が絡む。

どうしてかしら、私は。
彼の瞳を見たときにまるで『催眠術から醒めたばかりみたい』と思ってしまった。

「そんなことない、久遠。
 この子は可愛い」

喋り方が変わっている、気さえする。
その声のトーンさえも、バリトンからテノールに上がった気がする。

でも。
お気に入りのイケメンから、初対面にも関わらず『可愛い』と言われた興奮の方がそれを上回った。

私は、彼の異変に気づかないふりで

「千崎 夏希です」

と、初対面のイケメン二人に挨拶をしていた。


「奏は?」

「茶室で準備中だけど?」

ふぅ、と。群青色の着物を着ている青年がオーバーにため息をつく。

「新しい葉が入ったと言っておいたのに。
 紅茶を飲むなら、茶室よりダイニング、だろ?」

全くアイツは何もわかって無いんだから、と横柄に呟いて一人勝手にダイニングへと進む。

「奏を呼んでくるから、久遠についていって。
 迷子にならないように」

じゃ、と。
いとも簡単に手を解き、彼はその場から居なくなってしまった。


名前さえ、名乗らぬままに。
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