女子高生夏希のイケメン観察記
「……久遠、さん?」

恐らく名前と思われるであろうそれを、遠ざかる群青色の着物に呼びかけてみる。

「早く来い、ここは広い。
 迷子になられて探すのは、面倒だからな」

……サイデスカ。

私は慌ててその久遠さんの後を追う。

ダイニングキッチンの扉を開ければ、そこはマンションのモデルルームを思わせるようなフローリング仕立てになっていた。

「ここは、和風じゃないんですね」

「こっちの方が使いやすいだろ?」

言いながら、ケトルをIHにかける。

「さっき、茶室で店長さんが火をつけてたと思うんですけど……」

「消せばいい」

いや、それはそうですが。



「茶道の家元が良い茶葉を見つけたっていったら、普通、抹茶だと思うだろ?」

声をあげたのは、私じゃなくて息を切らして入ってきた店長さん。

「そうか?
 俺が無類の紅茶好きだってことは、お前が一番良く知っていると思ったが」

久遠さんは悪びれもせず、形の良い紅い唇の端を歪めて笑った。
きらり、と。黒曜石を思わせる瞳が煌く。
形の良い輪郭を縁取るのは、金色に染められた髪。

……き、金色って。

それでも和服が似合うところが、なんていうか怖ろしい。
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