女子高生夏希のイケメン観察記
久遠さんはゆっくりとした速度で顔をあげ、父親の瞳をじぃと見た。
そして、父の瞳に何を感じ取ったのか知らないけれど、緩やかに表情のなかに笑顔を混ぜていく。

ごく、自然に。
嫌味の無い、まるで、旧くからの知り合いであるのかと錯覚させるような、親しみのあるそれでいて失礼の無い、絶妙な表情だと思った。

それから、これまた私が言ったら確実に二回は舌を噛みそうな長ったらしい自己紹介を、続ける。

「どうぞ、おあがり下さい」

父親のなれない敬語を聞いたのは初めてかもしれない、なんて思いながら、私は久遠さんに続いて自分の家へと足を踏み入れた。

それにしても、あれよね。
茶道家元が一般家庭に来たときって、もてなすのも嫌じゃない?

「あの、ペットボトルのウーロン茶でも飲みます?」

気の利かない父に代わって聞いてみる。

久遠さんの、こめかみに一瞬だけ怒りのマークが浮かんだのが見えた気がしたが、今はとにかく「ジェントルマンモード」を決め込んでいるらしく

「お心遣いいたみいります。しかし、長居はいたしませんのでお構いなく」

などと答えている。


えっと。私が聞いたにも関わらず父親に答えているとはどういうことよっ!!
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