女子高生夏希のイケメン観察記
えぇぇんっ。
もう、出てきてくれないの?
ほら、さっきちらっと写った黒髪の、彼。
彼のことよ?

これ、絶対に地デジ対応じゃないわよね、と。
遊びに来た友人が意地悪く言って帰っていくような旧いテレビ。
私は今どき珍しい(と友人が言っていた)、その立方体のテレビに抱きついて泣きたい気分になってきた。

「夏希、高校生にもなってそんなに前でテレビを見るもんじゃない。
目が悪くなるぞ」

弟に呼ばれてしぶしぶ、昼寝から起きてやってきた父親がピントの外れた説教をはじめる。その前に、いくら暑いからって年頃の娘の目の前でパンツ一丁ってどうなのよ。
完全にセクハラでしょ。犯罪よ、犯罪!

父親のセクハラ姿を見て、我に返った私は、ぐしぐしと涙を拭いてテーブルに戻る。
未練がましくテレビを見るが、どうやら高校野球の中継が始まってしまったようだ。

そりゃそうよね。
テレビに出てきた人が、テレビの箱の中に住んでいるってわけじゃないことくらい、いくらお馬鹿の私でも知っているわよ。

うん、ほんとに。


< 4 / 163 >

この作品をシェア

pagetop