女子高生夏希のイケメン観察記
きっかり三十分後。

私は笑顔の父親に玄関先で見送られることになる。
もちろん、隣には相変わらず別人のように紳士的な久遠さんがいる。

「ふつつかな娘ですが、どうぞよろしくお願いします」

……はい~?

私、嫁に行くわけじゃないですよね~?

「ご安心下さい。
 当家の夏合宿は、マナー向上に大変役に立つと毎年高く評価されております」

……そちらの夏合宿と、私の人生に何の関係が?

っていうかね、お父さん?
突然家に現れた謎の男に娘をたくすって、どういう神経してんのよっ!

私は久遠さんが車の準備をしにいった隙に聞いてみた。

「ちょっと、いいわけ?
 娘が謎の男に攫われても」

父は満面の笑みを浮かべている。

「龍堂寺家の当主なら、『愛人』だっていいじゃないか」

お、お父様?!
年頃の娘に対してあんまりな発言じゃございませんか?

あんまりな発言に愕然とした私は、
……出て行ってやる、こんな家!!
という思春期特有の気持ちが強くなり、何の未練もなく久遠さんが運転する赤いオープンカーに乗り込む羽目になった。

当の久遠さんは、
「楽勝だな」
なんて笑っている。
さっきまでとはまるで、別人の顔で。


何があったって、決してこんな二重人格男の、妻にも愛人にもなりませんからね、私はっ。
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