女子高生夏希のイケメン観察記
「クロ」

低い声が耳に滑ってきた。
私は思わず顔をあげる。

智さんが――というよりは、伊達さんが。
左目のみに黒曜石を思わせるような輝きを携えて、真っ直ぐに私を見ていた。

「クロ……?」

それは、犬の名前か何かですか?
首をかしげながら、彼の言葉を繰り返す。

じぃと、見詰め合うこと数秒。

「知らぬのか」

探るような瞳。

「何の話か分かりません」

仕方が無いので正直に答える。

「……そうか」

残念そうに、伊達さんが言う。

「すみません」

あまりにも気の毒に思えた私は、つい、そう言い添えた。
伊達さんが、僅かに唇の端を吊り上げた。

「何故そちが謝る。変なヤツだ」

……えっと。
どっちかっていうと、変なのはあなたのほうですけどっ。

そう言い変えそうかと思ったけれど、そのかすかに見せてくれた笑みがあまりにも素敵だったから、見蕩れている間に言いそびれてしまった。


穏やかな時間が、縁側に流れていく。
< 55 / 163 >

この作品をシェア

pagetop