女子高生夏希のイケメン観察記
「夏希ちゃん判りやすいくらい緊張しているけど、俺、そんなに女に飢えたように見える?」

「……そ、そういう意味じゃないんですけど」

整った顔をあえて崩して無邪気な笑顔を浮かべ、とんでもないことを口にする智さんに私は思わず口篭る。

「そうだよね。
 いくらなんでもこんな山奥に今日知り合ったばかりの人と二人きりにされちゃ警戒するよね。
 帰ろうか?」

「でも、お仕事……あるんじゃないですか?」

「一つ、仕上研(しあげとぎ)したいものがあったんだけど、明日でも別に。
 刀を触るとまたトランスするかもしれないから、止めておこう」

言いながら、智さんは立ちあがって戸締りを始める。
私も手伝うって言ったんだけど、全部自分の目で確かめないと安心できないからってやんわり、でもきっぱりと断られてしまった。

戸締りが終わってから、智さんの車――パジェロだった――で、街に戻る。

「どうして、刀工をされているんですか?」

質問としては、多分、間違ってなかったと思う。

智さんは柔らかく首を捻る。

「どうしてだろう。
日本刀には、物心つく前から魅せられていたんじゃないかなー。
俳優さんが芝居しかないとか、ミュージシャンが音楽しかないとか言うように、気づけば俺には刀しかなかったってわけ」

そんな話を聞くだけで、もう。
どうしようもなくこの人の生き様はかっこいい!と断言できるあたり。


私の一目ぼれ度は相当お高いようだった。
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