女子高生夏希のイケメン観察記
「じゃ、一応聞いてやるけど、どんな宿題なんだよ?」

……う。

秋人がにやにやしながら聞いてくる。
私は言葉に詰まってしまう。

+++++

「夏休みの宿題は、各自自由だー。
 ただし、必ず何かを成し遂げてくること」

見た目だけは完璧なナルシスト、自称【殿】、他称【ナル】(もちろん、ナルシストの意味)と呼ばれているうちの担任が満面の笑みを浮かべて言い出したのは、夏休みに入る一週間前だった。

「全員、課題を決めるのでこれに書いて提出。
 特にやりたいことがないヤツは、俺のところに相談にくるように」

さらり、と。
自慢の艶やかな黒髪をかきあげる。

その仕草だけ見れば、誰でも甘いため息を吐いてしまう。
そんな、所作。

もちろん、趣味「イケメン観察」の私がこの4月、担任がこの稀に見る美形教師だと知って、飛び上がらなかったわけはない。

でも。

自らを「殿」と名乗り、他人の瞳に写る自分にすらうっとりする様を目の当たりにしているうちに、少しだけ彼に対する興味は削がれてしまった。

もちろん、こうやって遠くから眺めておく分にはまぁ、目の保養なんだけどね。

『イケメン=良い男』

という、私の中の公式をぶち壊した人であることに違いはない。
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