女子高生夏希のイケメン観察記
「でも、アパート借りてらっしゃるんですよね?」

今日はそこに帰るって言われてたはずだ。

「いや、借りてるんじゃなくて、貸してるの」

……はい?

智さんと話をすると、どんどん樹海の奥に入って行くみたいに、何もかもが混乱してくる。

おかしいなぁ。
その、語り口は丁寧だし、一見すると明快なのに。

何か、越えられない壁でもあるのかしら。

ふぅ、とため息をつく私に智さんは相好を崩す。
うわぁああっ。
無防備すぎる心に、その笑顔は相当な威力を発しているんでけどっ。

唐突に、脈拍があがって困ってしまう。

「今日はいろんなことがあって疲れたでしょう?
 ゆっくりお風呂に浸かって、のんびり休めば?」

「はぁい」

素直に返事をする以外選択肢の無いような提案に素直に乗った。

「そうそう。しっかり戸締りしておいてね。
 万が一トランスしたら、自分が暴走しない自信がないから」

……全く同じ笑顔と口調で、怖ろしいことを言うのは、どうかと思うんですが……。


智さん?
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