女子高生夏希のイケメン観察記
「ところで、智は?」

二人の会話が一息ついて、マスターがカウンター奥に戻った後、ふと思いついたように久遠さんが聞く。

……っていうか。
  そんな立派な和服で、喫茶店ってものすっごーくアンバランスなんですけど。

言いたい気持ちを抑えて、質問に答えることにした。

「あれからずーっと、山に篭りっきりで帰ってきてないですけど」

淋しいですー、なんていう本音を篭めてそう伝える。



「「え?」」



思いがけず、久遠さんと奏さんの声がハモったのにはびっくりした。



「うっそ、なっちゃん。
 それ、本当?」

目を丸くしているのは、奏さん。

「ええ。
 全然逢ってないですよ、私。
 早く帰ってきてくれればいいのに」

「夏希、何をのんびり他人事のようにっ」

さっと立ち上がったのは久遠さんだった。

「ママ、美味しい紅茶ありがとう。
 また寄るよ」

「あらぁ、嬉しい。
 待ってるわ。坊やのことも、待ってるわね」

ウインクしながら、語尾にハートマークを山のようにつけて答えるマスターに、久遠さんはさっとお金を渡すと、急いで外に出た。

いつも甘い笑顔しか浮かべてない奏さんの眉間にすら、軽く皺が寄っている。
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