女子高生夏希のイケメン観察記
「庭で剣を振るってた。
 刀を取り上げるまですっかり夢中になってるんだから。
 ほら、庭めちゃくちゃになってたろ?」

真実を知っている私でさえ騙せそうなほど、至極自然に奏さんが言う。

「それだけ?」

すぅ、と。智さんが目を細める。
何かを探るような、求めるような眼差し。

でも、奏さんは怯まない。

「そう、それだけ。
 僕が見たのはね」

そうしてアイドル然とした顔で柔らかい笑みを零した。

それは、嘘偽りの無い事実。
けれども、真実とはやはり言い切れない気がする。

「奏、俺が知りたいのは本当のことだ」

黒い瞳が射抜くように奏さんを見据える。

「僕が告げたのは本当のことだよ、智」

鳶色の瞳で、柔らかく微笑み続ける奏さん。

かみ合わない二人の会話。
それを見ながら、おろおろと視線を動かすだけの私。


交わされる言葉の軽さに反比例したかのように、空気がひどく重かった。




< 87 / 163 >

この作品をシェア

pagetop