女子高生夏希のイケメン観察記
「えっと、智さんはそういう卑劣なことはしないんじゃないかなぁ……っ!!」

ぼそっと呟いたのが良くなかった。
奏さんがにこやかな笑みのまま、私に近づいてくるんだもの。

いまだに花屋に毎日のように通ってくる奏さんファンが私の立場だったら、間違いなく卒倒しちゃうと思う。

だって、あれだよ。
後数センチ動いたら、絶対にキスしちゃうくらいの距離なんですけど。

近い、近いですよ。

これは、あれよね?
瞳を閉じたら、絶対に、マズいことになっちゃうよね。

私は必死に、イケメンのドアップに耐える。
いや、耐えるっていうのも変だけど。

そう、観察する。
夏休みの宿題のできは極めて順調、だから。

これも、観察日記に書いておけばいいよねー、と。

出来るだけ思考をキスから逸らす。
視線が絡んだままの、奏さんが、ふわりと甘く微笑んだ。

ま、まずい。
奏さんはいつも笑顔だから、見慣れているはずなのに。
心臓の柔らかい部分が勝手にきゅんって疼いちゃうーっ!!

「なっちゃん。
 これは卑劣な行為なんかじゃないよ」

うわぁ。
私、逃げないと、逃げないとって。

金縛りの術でも使われたかのように、身体がさっぱり動かないんですけどぉ。
美形の目力恐るべしっ。
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