女子高生夏希のイケメン観察記
「だって、なっちゃんは逃げようと思えばいつでも逃げれるもの。
 こうやって待ってくれてるってことは、僕に心が揺れているって思って構わないよね?」

耳に心地良いトーンで囁くように言うと、ゆっくり私の顎に指をかけてくる。

まーずーいーっ。
心臓が最大の力で叩いたティンパニ並の音を立てて私に警告を告げている。

分かってるわよ、分かってる。

でもさー。
奏さんだったら、別に。
キスされたって良くない?

「……奏」

二人のキスを遮ったのは、私じゃなくて、智さんの声。
それで金縛りが解けた私が、思わず目をやれば、わしわしとバスタオルでその髪を乾かしながら、目を丸くして私たちを見つめていた。

「十日の間に俺から夏希ちゃんを奪ってくれちゃったってわけ?」

涼やかな目でそんなことを言うから、私は焦って首を横に振る。

「ち、違うのっ」

そんな誤解しないでください、智さんっ。
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