女子高生夏希のイケメン観察記
「とりあえず、今夜はどちらにも落ちるほど心の余裕が無いんです。
 私、先にお風呂に入ってきていいですか?」

二人の本心が見えない、遠回りな言い争いから抜け出したのは私だった。

「夏希ちゃん」

名前を呼んで私の腕を掴み直したのは智さん。
見上げればそこに、完璧と称すことしか出来ないような顔に、影があった。

「俺はその悩み事を一緒に抱える義務があると思う。
 『俺が』何かを言ったんだろう?」

低い声は、耳に心地良い。

「自分が口にしたことも覚えてないような男に、何を相談するって言うの?
 なっちゃん。
 僕がその悩み、解決してあげる」

甘い声は、心をときめかせる。


うわぁ。
私って、今、まさに逆ハーレム状態?

これが人生に一度は来るって言うモテ期なのかしらっ。


なんて、いつもの私だったらきっと浮かれて舞い上がるのだけど。
今日は本当に余裕がなかった。

だから、奏さんが智さんを気遣っていたことも、智さんがそれを払拭しようと躍起になっていたことも、十分理解していたはずなのに。
気づけば、智さんに抱き寄せられるがままにその厚い胸板に顔を埋めて、私は涙を零していた。

二人のやりとりが全て無になると分かっていても、これ以上。
自分の感情を閉じ込めておくことができなかったのだ。
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