封印せし記憶
静菜がこの1Kのアパートで1人暮らししているのは、栄翠学園に通うにあたって、親戚の家から通うのは、あまりにも時間が掛かる。
という理由からだ。
静菜には両親がいない。
母は静菜が5歳になる年に家を出て行った。
父と姉は7歳の時に家事で亡くしている。
その後、父親の兄である朝日奈康太によって引き取られた。
そして高校に入るまでの8年間をその親戚の家で過ごした。
伯父と伯母は優しかった。
表面的には…
2歳上の従姉妹も静菜が家に来た頃はとても親切だった。
一緒に遊ぼう。一緒に勉強をしよう。一緒にお風呂に入ろう。一緒に…
当初は自身に妹が出来たかのような心境だったのだろう。
そんな台詞を幾度も口にした。
父と姉を亡くしたばかりの静菜だったがその度に笑った。
けれど静菜との会話は、会話と言うにはあまりにも一方的。
9歳の少女にはつまらなく感じたことだろう。
いつしか静菜に対して苛立ちを覚えるようになり、話しかけるのは必要最低限の事だけとなっていった。
それに対して静菜は特に何かを感じたことはなかった。