封印せし記憶
「……樋渡、和弥」
その静菜の雰囲気に気圧された少年が4度目にしてやっと自身の名を口にしたのだった。
それに満足した静菜は嬉しそうに微笑むと、また遠くを見やった。
そして再び数分間の沈黙。
それをまたしても破ったのは静菜のふわふわとした声。
「和弥は学校には行かないの?」
「…関係ないだろ。おまえには」
「あそこに立ってる木ね、春になると桜が咲くのよ」
また話が飛んだ。
和弥はそう思い静菜に視線を送るが、静菜は丘の上の木を見つめている。
「春になったら見に来ようね、和弥」
ニッコリと笑って和弥に振り返る静菜。
静菜を見ていた和弥は思わず視線がぶつかってしまい動揺した。
「なっ、なんで俺が、おまえなんかと…それに何ヶ月先だと思ってんだ」
「明日、学校に来る?」
「…さぁね」
急に話が戻ったが、突っ込むのも面倒に感じた和弥は、さぁねと素っ気なく返した。