封印せし記憶
「ねぇ、空って青いのよ」
「えっ?」
唐突の言葉に聞き返した少年は眉根を寄せた。
そしてまた始まったのかと嘆息を漏らしながら思う。
「私、空が青くてとてもよかったと思うの」
ふわふわと掴みどころのない声と微笑みで少年へと告げる。
「…そ、そう」
国語のプリントと一体なんの関係があるのだろうかと盛大に疑問を覚えた少年ではあったが、無難な返事を返したのは、相手があの朝日奈静菜だからだ。
「それで、プリントを…」
と、少年がもう一度催促を試みるものの、すでに静菜は少年に興味を失くしたように頬杖をついて窓の外を眺めるような体勢になってしまっていた。
やはり朝日奈静菜と会話を成立させることなんて出来ないのかと、少年は諦めの境地に達していた。