封印せし記憶
雨が降り出した時刻。
静菜は嬉しそうに空を見上げた。
そして軽やかに立ち上がると鞄も持たずに下駄箱へと足を向けた。
いつもの革靴に履き替え、躊躇もなく身体を濡らす。
今にも小躍りしそうな足取りで校門を通り抜け、しばらく歩いていると、急に静菜の周りだけ雨が止んだ。
ふっと顔を上げるとビニール傘が頭上に浮いていた。
不思議に思い振り返るとその傘を手にした人物と視線がぶつかる。
「和弥…?」
ふいっと、顔を背けた和弥に首を傾げる静菜。
「…おまえなんで傘差してないんだよ」
その言葉はぞんざいだったが、静菜はふんわりと微笑む。
「静かだね」
「は?」
「雨が降るとすごく静か」
その穏やかな声音に静菜へと振り返ると再び視線がぶつかり固まってしまう和弥。
まるでその空間だけが時を止めたようだった。