封印せし記憶
「…なんで…泣い、て…」
静菜の頬を涙が伝っていた。
それが和弥に衝撃を走らせたのだ。
数十秒前までは、笑っていたはずなのに。
どんな早業なのかと問いかけていてもおかしくはない。
しかしその瞳は哀しそうに揺れている。
それを見てそんな事を口に出来た者はいないだろう。
「なんだよ…なんで…」
「…和弥はどうして触れられるのが嫌いなの」
「なにを…」
和弥は困惑していた。
なぜ泣いているのか、なぜ今そんなことを聞くのかわからなかったから。
「…私の家はここなの」
「え…?」
和弥の困惑気味の声に静菜は目を伏せた。
こんな話をする為に連れてきたわけじゃない。
なぐさめて欲しいわけじゃない。
なぐさめたい訳でもない。
静菜の中で言い知れぬ感情が押し寄せていた。