封印せし記憶
「……雨、止んだかな」
「おい…?」
顔を上げた静菜はいつも通りのふわふわとした、けれどどこか違和感のある笑顔を浮かべていた。
「気をつけて帰ってね」
和弥を見上げながら、そう言った静菜の瞳は暗く深い海の底を思わせた。
そこは何者をも受け付けない場所。
和弥はその圧力に身体の全てが重くなったように感じ、口を開くことも出来ず、のろのろと静菜の部屋を後にした。
和弥がいなくなったその部屋で、静菜は放心していた。
溢れ出した感情は静菜のあずかり知らぬもの。
この言い知れぬ感情は何か。
なぜ涙が流れ出たのか。
なぜあんな事を聞いたのか。
なぜあんな事を言ったのか。
なぜ…和弥に興味を持ったりしたのか。
静菜は考えることを拒否した。