封印せし記憶
「……っ…」
引き摺るように屋上まで静菜を連れて来たはいいが、何を言っていいのかわからず口ごもる和弥。
振り返り静菜を見下ろすがやはり言葉は出てこない。
無言のまま口を開こうとしない和弥の代わりに静菜が口を開いた。
それは極々自然に。
「和弥を知りたいと思ってしまう私はいらないの」
まるで、意味の無い会話を交し合っている最中の言葉であるように。
そうなんだ?などと返事をしてしまいそうなほど軽く。
しかしそれは和弥自身がいらないのだと…不要のモノであると宣言されたようだった。
和弥の中に生まれる負の感情。
静菜の瞳を和弥が見ていなければ爆発していただろう。
ありとあらゆる口汚い言葉で罵倒していたに違いない。
それほど憤激した和弥が平静さを取り戻すほどの静菜の澱んだ瞳。
その瞳は和弥を映してはいなかった。
静菜はしっかりと和弥を見上げているにも関わらず、その瞳に和弥はいない。
和弥は驚いた。
生命の息吹を感じられないその瞳が、あまりに異様であると察知せずにはいられない。