封印せし記憶


「おいっ!朝日奈っ!俺を見ろっ!」

静菜の左肩を掴んで大きく揺さ振り、名前を呼ぶが澱んだ瞳に光は戻らない。
それでも静菜は言葉を紡ごうと口を開く。

「だからね?和弥…私を許して」

紡がれた言葉にそぐわない静菜の笑み。
ふわりと笑う今の静菜は奇異でしかない。
いつものあのかわいらしささえ欠片も残らないほどに。

「朝日奈っ!!しっかりしろよっ!」

どんなに呼んでも光の戻らないその瞳に、焦燥にも似たもどかしさが和弥を支配した。


「朝日奈っ!」

和弥は掴んでいた肩を引き寄せ静菜を腕の中に閉じ込めた。

しかし和弥は強く抱き締めることが出来なかった。
壊れてしまうのではないかと感じたからだ。

それはまるでビードロのようだと。
ほんの少し吹く力を間違えれば、いとも簡単に儚く砕け散るビードロ。

静菜の全てがそんなビードロのように儚く脆い存在だと知らされたような気がしたのだ。

ガラス細工のような静菜が壊れないように、慎重に細心の注意を払い、けれどそれゆえに畏怖することなく抱き締め続けた。


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