封印せし記憶
静菜は、和弥の腕の中に閉じ込められたことを理解していた。
そうされることに抵抗をするべきだと、頭の中で叫んでいる自分がいるのに、心は抵抗を感じる隙間さえない。
静菜の心と身体は、その温かなぬくもりを求めていた。
それは静菜には必要のなかったもの。
それを求める自分が酷く滑稽であると静菜は感じた。
自分にはそれを求めるほどの価値もないはずではないかと。
自虐的な心に蝕まれそうになる静菜。
しかし和弥の包み込むような腕がそれをさせなかった。
どうして彼は私を抱き締めてくれるんだろう。
彼は人に触れられることが嫌だと言っていたのに。
関わるなと何度もそう言っていたのに。
どうして彼は…
あぁ、やっぱり私は彼が傍にいると、感情という邪魔で、厄介なものが芽を出す。
あの日から、私はただ人形のように生きてきたのに。
そうであることが私の…
それでも私は…
静菜は和弥の胸元をぎゅっと握り締めた。
「…朝日奈?」
そんな反応を示した静菜に届く和弥の不安を含んだ声。
そしてゆっくりと離れていく和弥の身体。
それはスローモーションのように。
静菜は和弥を見上げる。
その瞳には光が宿り、視線が交わった瞬間にそっぽを向いてしまった和弥をしっかりと映していた。
「…悪い」
なぜか謝罪の言葉を口にしながら静菜との距離をとる和弥。
「…大丈夫、なのか?」
静菜はそっぽを向いたままの和弥に首を傾げたが、すぐに静菜の興味は別のところへそれていた。