封印せし記憶
「和弥…飛行機雲」
「え…」
振り返った和弥は空を仰ぎ見る静菜の視線を追った。
そこには一筋の飛行機雲。
「…はぁ……朝日奈、大丈夫なんだな?」
安堵のような呆れのような溜息を吐いて静菜に視線を戻して訊ねる。
「和弥は?」
「は?」
空を仰ぎ見たままの静菜の問いに、意味がわからず聞き返す和弥。
「和弥は大丈夫?」
静菜のふわふわとした声と共に、すっと下りてきた視線が和弥の視線とぶつかる。
「どうして俺が…いや、いい。大丈夫なら俺は帰る」
踵を返した和弥を追いかける静菜。
階段を下り始める和弥を静菜が追い越したかと思うと踊り場に立ち、和弥を振り返りフワリと笑った。
和弥はピタリと足を止めた。
その顔がみるみるうちに朱に染まっていく。
「私も一緒に帰る」
「…勝手にしろ」
その赤くなった顔を見られまいと俯いた和弥がそっけなく言う。
朝日奈が笑ったぐらいでなにを動揺してんだ。
だいたい肝心の話が出来なかった。
…いや、今はいいか。
せっかく笑ってるんだ。
それを俺が壊す権利なんてない。
和弥はそんなことを考えながら静菜と共に学園を後にした。