封印せし記憶
和弥に飛びついた少女の名は三条涼子。
今にも溜息を吐きそうなほど脱力している少年は大橋修史。
和弥と修史は小学生の頃からの付き合いで、和弥の唯一の友人と言っても過言ではない。
和弥と涼子の関係は…無関係、と和弥は答えるだろう。
しかし涼子は違う。
涼子はなぜか和弥に執着しているようだ。
中学2年の時に涼子に告白されて以来、卒業するまでの間、周りをうろつかれ、和弥は迷惑をしていたのだ。
どれだけ冷たくあしらっても、まったく動じずいつもいつも纏わりつかれていた。
高校に入ったことでやっと涼子から解放されたことだけが、和弥の救いであった。
なのに、今それが目の前にいることが不愉快でしかたがないようだ。
「付き合ってないの!?なんだぁ…よかった。でもどうして付き合ってるなんて噂…で、その子どこにいるの?その噂になってる朝日奈静菜って子」
涼子は和弥の少し後ろに立っている静菜が見えていないらしい。
静菜の身長が153で涼子が165と身長差がある為か。
いや、おそらく涼子の目に入っているのが和弥だけだからだろう。
「おい、三条。もういいだろ。噂はデマだったんだ。帰ろう」
修史が和弥の様子をかんがみて、涼子を諭すように告げる。
「大橋くんは黙ってて。ねぇ、和弥。どんな子なの?」
それでも涼子はそんな修史を突っぱね、食い下がるように和弥に問う。
和弥にとっては苛々と神経を逆撫でられるような、よく通る涼子の声。
和弥はそれが大嫌いだった。