封印せし記憶
「どうして?和弥のことわかってあげられるのは私だけよ?」
和弥が無言でいることに不満を持った涼子は、拗ねたような口調で言う。
「あぁ?」
「だって和弥の傷は、私だけがわかるんだから」
返事かどうかもわからないような、ぞんざいな和弥の声に嬉しそうに笑んだ涼子がそう言った。
「…黙れ。それ以上言ったら女でも、ただじゃおかねぇ」
その言葉に和弥は反応した。
そして地割れしてしまうのでないだろうかと思わせるほどの、怒気を含んだ声で発した。
「三条!それ以上はやめとけよ。ほら帰るぞ」
修史はこれ以上和弥を怒らせるのはまずいと判断したのか、涼子の手首をとって帰るぞと促した。
「…いやっ。和弥がどんな子と噂になったのか教えてくれるまで帰らない。ねぇ、教えてよっ!」
涼子はその手を振り払い、目に涙を溜めながらそれでも強気な口調で言い募る。
「…俺に関わるなって何度言わせれば気が済むんだ」
「……っ」
和弥が涼子を威圧するように睨みつけると、涼子はビクリと身体を震わせ一歩後退した。
ふいに袖が引っ張られる感覚を覚え振り返る和弥。
そこには、和弥を見上げふわふわと微笑んでいる静菜がいた。
「朝日奈…」
「っ!?」
和弥が発した言葉に驚いた涼子が視線を静菜へと移す。
涼子はそうしてやっとそこに、1人の少女が佇んでいたことに気付いたのだった。