封印せし記憶


「栄翠に入ったくせに、真面目にやってないんだって?あの栄翠に不良がいるって、すげぇ噂になってる。だから朝日奈さんとのことも他校まで流れてくるんだ」

修史の口調はあくまでも軽い。
その言葉が物質として存在したならば、今まさに和弥達の間を吹き抜けていった風にひらりと舞って、どこかに飛んでいきそうなほどに。

和弥は相変わらずだなという言葉は飲み込み、溜息だけを吐き出した。

「…別に。不良になった覚えはねぇけどな」

修史を相手にする和弥の瞳には諦めの色が窺えた。
修史の口調がそうさせているのだろう。

「う~ん……俺は和弥の育て方を間違えたらしい」

今度は腕組みをしながら深刻そうに、沈痛な面持ちを漂わせながらそんなことを言う修史。
和弥は顔を引きつらせずにはいられない。

「おまえに育てられた覚えはねぇ!」
「冗談だって。俺も和弥みたいに頭がよきゃ、一緒に栄翠入れたんだけどな。残念だ」

ぱっと腕組みを解きながらケロリと冗談だと言った直後には、それこそ痛恨の極みだと言わんばかりに歯がみする修史。
そんな修史を見ながら、やはり相変わらずだと言わんばかりに嘆息する和弥。

「おまえが入ってどうすんだ」
「どうするって、決まってるだろ。和弥の監視だよ。…まぁ、でもその心配ももうなさそうだな」

チラリと、和弥のすぐ傍に佇む静菜に意味深な視線を送る修史。
その瞬間、修史は静菜と視線が交わったような気がして、ニッコリ微笑んでみれば、浮かべていた薄い笑みが深さを増してフワリと微笑まれる。

修史の視線に気付いた和弥が、静菜を見やると静菜の微笑みはすぐさま和弥へと注がれた。
それはもとから和弥の為であったかのように。


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