封印せし記憶


「…なにが言いたいんだ」

それは修史への言葉であるのに、和弥は静菜に視線を落としたままだった。

「いや、なんでも」

修史はくくっと咽の奥で笑うとじゃあまた来るからと言うと、背後に向き直る。
そして茫然自失に立ち竦む涼子を引き摺るようにして歩き出した。



今日は三条について来てよかった。
おもしろいものが見れたしな。
あの子はまるで和弥の精神安定剤に見えた。

三条が喚いてる時でも、ただ黙って笑みを浮かべているかと思えば、和弥を見上げて微笑んで見せれば、和弥の苛立ちが和らいだ。

おもしろい。
俺としては三条なんかが付き纏うよりも、断然いい。

こいつは和弥の傷は自分だけがわかってあげられるなんて言ってたけど、思い上がりも甚だしい。
そんな事を口にする時点でアウトだってわかってないんだ。

今度、あの子…朝日奈静菜と話がしてみたいな。
和弥をあんな風に出来るなんてどんな子なんだろう。



修史は涼子を引き摺りながらそんな事を考えていた。
そして、おもむろに涼子へと振り返ってみれば、未だに自失状態の涼子が目に入り、大きな溜息を吐き出していた。



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