封印せし記憶
限界
それから5日。涼子は放課後、必ず現れるようになった。
隣に並ぶ静菜を押し退けるようにして、和弥の隣を陣取る涼子。
静菜はそれを特に気にする様子は見受けられないが、和弥はやはり苛立ちを募らせていた。
和弥の神経は限界に近かった。
たった5日。されど5日。
どれだけ和弥が無視を決め込んでも、涼子は1人で喋り続けるのだ。
それはもう弾丸のように。
今日は授業などサボって帰ってしまおうか。
そんな考えが和弥の頭を過ぎった。
最近の自分の方がどうかしているのだからと。
和弥はさっと立ち上がり、鞄を手にして教室から1歩踏み出す。
しかしそれ以上、足が前へ進まない。
和弥の表情はしかめっ面へと変わり、何かを考え込むように固まってしまっていた。
朝日奈をどうしようか。
そんな考えが浮かんできたのだ。
しかし特に何かを約束しているわけではないのだからと、もう一歩踏み出した和弥だったが、やはりそれ以上足が前に出ない。
和弥は表現しようのない気分に襲われ、眉間に深く皺を刻むと軽く舌打ちして、静菜のいる教室へと足を運ばせた。
静菜の教室までの道のりを、和弥は不機嫌に踏み鳴らし歩く。
「…おい…帰るぞ」
いつも通り窓の外を眺めている静菜の横に立って低めのトーンでそう言うと、さっと踵を返す和弥。
振り返った静菜は、フワリと笑んで和弥の後を追った。