封印せし記憶


ここ数日、和弥と静菜は放課後を待つことなく、学園を後にしていた。
それもこれも和弥が涼子に会いたくないという理由からだが、和弥に会えない怒りの矛先を涼子は静菜に向けているのだった。


殺意さえあるのではないかと思うような目で睨みつけてくる涼子。
しかし静菜は何を思ったのか、そんな涼子の腕を取って学園の敷地内に入っていく。

「ちょっ!なんなのっ!?放してっ!!」
「…人がいないところに行こう」

静菜は冷静さを漂わせる静かな声で涼子に告げる。

涼子はほとんど静菜の話しているところを見たことがないが、初めて会った時のことをふいに思い出し、あのふわふわした喋り方とは違ったことに驚き、黙ってしまった。


互いが無言のまま、静菜は涼子をどんどん草の茂みへと引っ張って行く。
そして校舎の影になっているようなところで、静菜がピタリと足を止めると、涼子の腕を放して振り返った。

静菜が涼子を連れて来た場所は学校の裏手。
裏庭とも呼ばれているが、そこは雑草が鬱蒼と生い茂っていて、裏庭と呼ぶには少し荒れ果てている気もする。

しかしあまり人が立ち寄らないそこは、込み入った話をするにはちょうどいいだろう。


「…あなたが言ってたことちゃんと聞こえてたし、理解もしてたから安心して?」

数秒間、静菜は涼子を見据えると、ゆっくりと冷静にそう口にした。
やはり静菜の声はいつものふわふわとした声音ではなかった。

落ち着き払った冷静なそれは、本当に静菜なのだろうかと思わせるほど。


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