封印せし記憶
「はぁっ!?だったらバカみたいに笑ってんじゃないわよっ!!」
ここまで無言で付いてきてしまった涼子だったが、静菜の言葉に癇癪を起こしたように声を荒げた。
しかし静菜はそこでふわりと微笑む。
この場面に一番似つかわしくないその表情。
先程までの雰囲気は完全に消失し、いつもの静菜がそこにいた。
涼子は言い表しようのない怒りに苛まれた。
どうして自分が怒っているのに目の前にいるこの女は笑っているんだと。
「私は和弥の傷をわかりもしない人に傍にいてほしくないっ!!
私ならわかってあげられる。私なら和弥とわかちあえるっ!!
和弥のこと何も知らないくせにどうしてあんたが和弥の隣を歩くのよっ!!
和弥に近寄らないでっ!!」
涼子は一気に捲し立てた。
涼子は自身ではない誰かが和弥の隣を歩くことが納得できなかった。
一度たりとも隣を歩くことも許されず、徹底的に邪険にされ続けたことが悔しくて仕方がないのだ。
静菜のようなわけのわからない女がと思うと、それはさらに激化していた。
怒りの炎を瞳に宿し静菜を睨み続ける涼子。
「……他人の痛みなんて…気持ちなんて、誰にもわからないよ」
ぼそりと、独り言のように静菜が口にする。
俯き気味に、その顔に微笑みはない。
しかし先程のような冷静さがあるかといえば、そうではない。
危うい綱渡りのような静菜が佇んでいた。