封印せし記憶
涼子は静菜を睨み続けているが、怒りや嫉妬と言った醜い感情で支配され、静菜の様子に気付く気配はない。
そして独り言のように呟いた静菜の言葉にさらに罵倒を浴びせようと口を開いたその瞬間。
「三条っ!!」
大きく涼子の名を叫ばれ、咽まで出掛かった言葉を呑み込んだ。
涼子が振り返れば、息も切れ切れの修史の姿。
不機嫌をどこまでも表す和弥の姿が目に飛び込んだ。
「和弥っ…」
涼子はうろたえたように和弥の名を呼んだ。
「三条…いい加減に、しとけよ。朝日奈さんに当たるのはお門違いだろう」
まだ少し息の上がっている修史が三条を諭すように言う。
「大橋くんは黙ってて!私は和弥じゃなきゃダメなの!和弥ならわかってくれる。和弥だって最低な親に育てられたんでしょ!?」
涼子の耳に修史の声は届いてはいても、涼子は和弥だけをその目に捉えて放さない。
すがるような目で和弥を見つめても、和弥から返ってくるのは、冷たい嘲りの視線。
「っ…私の傍にいてよっ!1人じゃ乗り越えられなくても2人なら乗り越えられる。そうでしょ!?」
「…バカバカしいっ。俺はおまえに都合よく扱われるなんてごめんだ」
諦めない涼子に心底、嫌気がさすのと同時に侮蔑の色が浮かぶ和弥。
声を荒げることさえ愚かであると思わずにはいられない和弥は冷ややかに言葉を吐き出す。