封印せし記憶


「それに三条にも和弥にもお互いの痛みなんてわかりっこないんだ。
おまえらの傷はすごく似てるかもしれないけど、やっぱりそれは全く別物だ。
同じ傷なんてない。三条はすごく勝手だ。そうやって三条が関わることで和弥が傷付いていくことに気付いてない。三条は自分のことしか見えてない。
それは和弥を好きだなんて言えない。俺はそんな三条に和弥の傍にいてほしくない」

静かで穏やかなそれは、涼子の中にゆるやかに、しかし確実に染み渡る。

「っ……」

涼子は下唇を強く噛み締めた。

「帰ろう。三条。おまえの傷を癒してくれる奴はきっといる。でもそれは和弥じゃない」

修史はそんな彼女の頭上に手を乗せて、優しく微笑む。

「和弥、朝日奈さん。迷惑かけて悪かったな。三条のことは俺にまかせてくれ」

そして静菜と和弥へと謝罪の言葉を述べると、涼子の手を取って歩き出した。


涼子は修史に強い力でぐいぐいと腕を引かれながらも和弥へと振り返った。
修史の言葉がじわじわと浸透していくのを感じながらも、やはりそう簡単に諦められなかったのだ。

けれど、和弥は仏頂面のままで涼子を見ようとはしなかった。
湧き上がる絶望感。そして悲しみ。


どうして私じゃダメなの?
どうして…


涼子は目頭が熱くなるのを感じた。
しかし頭をぶんぶんと強く横に振って、それを誤魔化した。
絶望も悲しみも…そして和弥への想いさえも全て消えてしまえばいいと願いながら。



< 65 / 87 >

この作品をシェア

pagetop