封印せし記憶
「おいっ、朝日奈。あいつはお前に何を言った?」
「……さぁ、なんだったかな。すごく叫んでたから何を言ってるのか私にはわからなかった」
そう言いながら、和弥に向かってにこっと笑った静菜に和弥は深く深く溜息を吐いた。
「とにかく、あいつが言ったことは全部忘れろ」
呆れ半分、諦め半分の和弥が素っ気無く言う。
いくら涼子が興奮していたとはいえ、言葉が聞き取れないということはなかったはずだと和弥もわかってはいたが、これ以上深く追求することをやめた。
もし万が一にも静菜の口から明快な答えが返ってきたとしても、和弥は結果、それは忘れろとしか答えられないとわかっていたし、これ以上続けてもいたちごっこになるのは明白だったからだ。
「ねぇ、ここってどうしてこんなに荒れ放題なんだろうね。誰か草抜きしないのかな」
「…知るかよ」
裏庭が雑草で荒れ放題になっている事に、本気で疑問を抱いているのかと、疑わずにはいられない静菜の気の抜けたような声に、和弥もどうでもいいと言いたげに返した。
静菜はやはり本気でそれを疑問にしていたわけではなさそうだった。
和弥の返答も興味なさげにぼんやりと空を仰いだのだ。
以降、口を閉ざした静菜を数分、和弥は窺うように見ていたが、それはあまりにも無意味だった。
ふと自身の胸の内ポケットに収められた携帯を取り出し時間を確認すると、あと15分もすれば1限目が終了する時刻となっていた。
和弥はそれと共に顔を顰めた。
これから授業を受けるのが億劫になっていたのだ。