封印せし記憶
和弥はその思考にあっさりと従った。
「今日は帰る」
短く言って踵を返そうとする和弥に静菜はわかったと言うかわりに軽く頷いた。
それを確認した和弥が歩き出すと、その背中に「また明日ね」そう声をかけた静菜。
そして静菜は1限目の授業終了の合図と共に教室へと向かった。
静菜は裏庭で和弥に楽しみだと告げたことでわかるように生物が好きだった。
ゆえに生物の出席率は他の教科よりも圧倒的に高い。
いつも外を眺めている静菜だが、それは生物の時間もなんら変わりのないこと。
なのになぜ生物が好きなのか、なぜ出席率が高いのかは不明だ。
4限目のチャイムが鳴り響くと同時に教室内に現れた生物担当の教師。
無言のまま教卓の前に立つと、すぐさま日直が号令をかけた。
がたがたと音を立てて椅子から立ち上がる生徒達。
そんな中でも静菜は平然と腰を下ろしたままだった。
生物担当である中河拓はそんな静菜にチラリと視線を送ったが注意をするわけではなかった。
中河はいつもそうだった。
授業開始の挨拶の瞬間に静菜に視線を送るがただそれだけ。
他の教師であれば目もくれないはずの静菜の協調性のない行動に非難を浴びせるように毎回送られる視線。
中河はまだ若い。容姿を見れば20代半ばだとわかる。
その若さがそうさせるのか…