封印せし記憶
淡々と進められていく生物の授業。
抑揚のないその授業はあまり評判がよくない。
しかしそこはやはり栄翠。
どんな授業であろうときっちりとついていく。
そんなはっきり言ってつまらない授業もなんなく過ぎる。
とは言っても静菜個人はつまらないと思っているのかどうかもわからない態度だが。
既に6限終了間際となった時刻。
静菜は未だ自身の席に腰を下ろしている。
めずらしいその風景。
頬杖をついている静菜。
何も考えていないようにも見えるが、実は涼子を思い浮かべていたのだ。
だからと言って憐れみや怒りを覚えていたわけではない。
涼子と和弥の境遇を詮索したいと考えていたわけでもなかった。
ただぼんやりと、涼子の顔を思い浮かべていただけ。
何を思うでもなく、ただぼんやりと。
ふいにそれが遮断されたのは、6限終了のチャイムが鳴り響いたためだった。
気付けば静菜は鞄を手にして教室を後にしていた。
まだHRが残っているためか廊下は人気がない。
しかし静まり返った廊下とは裏腹に教室内からは生徒達の声が漏れ聞こえる。
たった壁一枚でその場所が切り離されたような空気を漂わせるのはなぜだろうか。