封印せし記憶
珈琲
迷いのない静菜のその歩みを止めたのは、今朝、帰っていったはずの人物だった。
「朝日奈さんっ」
校門を出て数歩進んだところで呼び止められた静菜。
ゆったりと振り返り見れば、校門の壁に凭れるように立っている修史の姿。
「ごめん。急に来て。あの後、すぐに和弥の携帯に連絡したら朝日奈さんは学校に残ったって言ってたから。でも会えてよかったよ。朝日奈さんは気紛れだって聞いてたからね」
首を傾げた静菜に修史は苦笑する。
「少し話がしたいんだ。もちろん勝手に来たのはこっちだし、この後用事があるって言うなら、また今度でも構わないよ」
「…この近くの喫茶店のケーキおいしいのよ」
にこりと微笑んだ静菜に修史は深く頷いた。
「いいね。俺もケーキ好きだよ」
そう返したことで、その場所で構わないと意思表示した修史。
静菜は喫茶店に向かって歩き出した。
修史はその半歩後ろを付いて行く。