封印せし記憶
しばらく無言だった2人のテーブルに、先程注文した紅茶とコーヒーが運ばれてくる。
「お待たせ致しました」
慣れた手つきでカップをテーブルに置いた店員が「ごゆっくりどうぞ」と声をかけて、戻って行った。
目の前の置かれた飲み物に互いが手を動かす。
静菜は紅茶の中に角砂糖をひとつ落とした。
修史はコーヒーには手を加えず、そのまま口元へと運ぶ。
静菜がくるくるとティースプーンでかき混ぜていると、カランと喫茶店内に響いた扉の音。
どうやらカウンターに座っていた1人が出て行ったようだった。
「私は紅茶が好きよ」
それを合図のように口を開いた静菜。
「朝日奈さんっておもしろいね」
そう言って笑った修史に静菜は珍しく驚いたような顔をした。
「あっ、ごめん。女の子に面白いは失礼だよね。朝日奈さんはコーヒーが嫌い?」
静菜はさらに驚き、目を見開いた。
「あれ?違った?なんとなくそうかなって思ったんだけど」
「っ……」
「あぁ~でもそれならわざわざコーヒー専門みたいなところにはこないかな。ごめんね。勘違い」
軽くそう言った修史に静菜は返事をするつもりはなかった。
修史が言った事が当たっていたことに、驚いて声が出ないのと同時に、それを肯定するのが嫌だったからだ。