封印せし記憶


「今日、三条の事を誤りに来たのは、口実なんだ。本当は、朝日奈さんと話がしてみたくて」

何が楽しいのか、ニコニコと満面の笑顔の修史。

「…栄翠の学年トップって聞いてたからどんな人かと思ったけど、トップって感じはしないよね。あ、気に障ったらごめん。でも悪い意味じゃないよ。ところでダージリンってどんな味なの?俺、ほんとに紅茶って飲まないんだよね。おいしい?」

未だに口を付けられていない、静菜のティーカップに視線を落としながら言う修史。

「あぁ、ごめんね。これじゃ落ち着いて飲めないよね。…でも、朝日奈さんってやっぱりコーヒーが嫌いなんじゃない?」

急に真顔になった修史。
静菜の眉の筋肉がピクリと反応した事を見逃さなかった。


「……甘味がある味わいはマスカットフレーバー、香り高い紅茶」
「ははっ。どこかから引用したみたいだね。というかそれは、感想じゃなくて、説明だよね。俺は普通の感想を聞かせてくれればよかったんだけど」

目を伏せていた静菜の顔を覗きこむようにして、視線を合わせようとする修史。

「朝日奈さんって本当におもしろいね。それってわざとやってるの?」
「…え……?」
「なんて言うか…さっきのふわふわした感じ。それにこっちの質問は、はぐらかそうとしてるんだよね。さっきは返答がなかったかな」

それは修史特有の軽い口調だった。
静菜は呆然として修史を見つめ返していた。

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