封印せし記憶
「……ど、どうして…私がコーヒーが嫌いだって思うの」
長い長い沈黙の末に、搾り出した言葉。
動揺しきった静菜の声。
そこにはいつもの静菜は存在しなかった。
「ん~どうしてって聞かれると…ケーキを頼まなかったのはコーヒーの香りのせいじゃないかって思ったんだけど。ほら、俺がケーキよかったのって聞いた後に、コーヒーの香りの話をしたでしょ。その時、少し表情が曇ってたんだよね。もしかしてそれが返答なんじゃないかって思ってね」
違った?と無邪気に笑いかける修史に静菜は息を呑む。
静菜の頭の中は混乱していた。
意識して話したわけじゃなかった。
表情が曇ったなんて私は知らない。
私が気付いてないことにどうしてこの人は…
「あ、もしかして正解?実はずっと考えてたんだよね。どうしてあの時、表情が曇ったのかって」
そんな事で答えが導き出せるものなのかと、心中穏やかにはいられない。
そんな静菜を傍らに、当たっててよかったと暢気にコーヒーを口に含む修史。
「あぁ、でも勘違いしないでほしいんだけど、朝日奈さんがどんな朝日奈さんでも、別にいいと思うよ。ただ俺が気になったから聞いてみただけなんだ」
静菜の心境を読み取ったかのように、心配そうに、少し首を傾げながら話しかける修史は、どこか納得したような雰囲気を漂わせていた。