封印せし記憶
小高い丘のある公園まで、帰り着いた静菜は、ベンチに腰を下ろして空を仰いだ。
もう、すぐそこまで闇が迫ってきている空を見て、静菜の心は沈んだ。
『……最初は…話しかけられれば薄く微笑んで……いつからか、その微笑みをはりつけるようになったの。だから今は、特に意識してるわけじゃなくて……
会話は…私、人と…会話をするのはあまり好きじゃなくて……』
ティーカップの中身が波立っていた。
カップを持つ手が震えているからだと修史は気付いた。
『うん。大丈夫だよ。責めてるわけじゃないんだ。朝日奈さん、朝日奈さんは…いや、やっぱりいいや。…それでも和弥とは一緒にいるんだね』
『……』
『俺は喜んでるんだよ。あんな和弥は初めて見たしね。今朝、うちの学校とは反対方向に歩いてる三条を見かけて嫌な予感がしたんだ。だから栄翠に来て、和弥を探した。和弥に会いに来てないなら、朝日奈さんかもって言ったらあいつかなり怒ってたよ。顔には出さなかったけどね』
静菜はこの人の近くにいたら全てを見透かされるんじゃないか。
そんな恐怖が溢れ出していた。
『今度はここじゃなくてちゃんとしたケーキ屋に食べに行こうよ。朝日奈さんは行動もおもしろいよね。嫌いなのにここを選ぶなんて。俺がおいしいケーキを探しておくよ。ほら、ほら。さっきまでの朝日奈さんに戻ってよ。じゃないと俺、心配で帰れないから』
にっこり笑う修史。
静菜は紅茶を口付近まで両手で持ち上げて、ダージリンの香りを大きく吸い込んだ。
そうやって自身を落ち着かせようとする静菜を修史は優しげな眼差しで見守っていた。