封印せし記憶


自宅へと帰り着いた数分後に、インターフォンを鳴らして現れた修史。
玄関前に投げ出された自転車は修史が急いで駆けつけたことを示していた。



和弥は、無言のまま修史をリビングへと通した。

「…朝日奈さん。どうして……」

そこには脅え続けソファで身を小さくしている静菜がいた。
それを目にした修史は呟き、静菜の目の前に腰を落とした。


「朝日奈さん、聞こえる?朝日奈さんっ」

呼びかけても小刻みに顔を横に振るばかりの静菜。
和弥は静菜がこうなった経緯を簡単に説明した。

その間、修史は手首を守るようにギュッと握り締めている静菜を無言でジッと見つめていた。


「…和弥。朝日奈さん、何言われたって?」

修史は静菜から目を逸らさずに鋭い声で問いかけた。

「…だから話がしてぇって」
「それだけじゃないだろ?」

修史の指摘に、和弥はあの少年の言葉と下卑た笑みを思い出し歯がみした。

「……楽しいことを教えてやるって」

苦々しく呟くと、その言葉が耳に届いたらしい静菜は、ビクッと大きく身体を震わせた。
そして過剰反応とも言えるほどに、明らかに静菜は怯えが増していた。


< 85 / 87 >

この作品をシェア

pagetop