あいつ~序章
 俺はあいつの自由を完全に奪おうと決意した。

 両腕を後ろにまわすと、互いの腕で輪となるようにあいつのそれぞれの手首を掴んだ。そしてゆっくり互いの体を起こし、体を離さないようにしながら寝室のベッドに連れていった。
 後ろ手を束縛されたあいつは観念したように下を向いて俺に従った。その気になれば俺の睾丸に強烈な一発を見舞えるだろう。だが、あいつは奴隷の様に従順だった。
 ベッドに手首を掴んだままあいつを横たえる。俺の体がそのまま被さる。
 俺は焦っていた。
 こいつを絶対に逃がしたくなかった。腕を離せば逃げてゆくだろう。ほんのひととき何かの間違いで俺の前に現れた天からの贈り物なのだ。

 ・・・これは人ではない、これを繋ぎ留めるためにはひとつになるしかない・・・
 声が頭のどこからかした。悠久の昔からのような声だ。

 大切な友人を辱めようとしている俺は気が狂ったのか?
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