あいつ~序章
 俺は風呂と続きになっている洗面所に行って、ドライヤを出した。ドライヤのスイッチを入れようとしたとき、ノブのきゅっという音と水の流れる音がした。

 そっとあいつを伺うと、キッチンの流しで食器を洗い出していた。
「お・・おい、そんなことしなくてもいいよ」
「こんなひどい臭いのところにいるのいやだよ。皿、洗ってやるからそっち乾かせよ」
 俺はそそくさとズボンを脱ぎ、下着で汚れを拭き取って、普段着にしている裾が長い生地の厚い海水パンツを履き、Tシャツ姿になった。
 あいつが俺の部屋に一人で来た、ということに心は浮き立っていた。

 乾かしたスーツを持って脱衣所から出ていくと、あいつはあの姿のまま、サンダルをつっかけて、生ごみで膨らんだビニール袋を持って外に出ていった。

「あ~、やばい!下のおばさんに見られちゃった!」
 あいつはばたばたと駆け込んで帰って、俺の顔を見ながら言った。
「こんなかっこうで見つかっちゃったよ!・・・昼間からお前となにかやばいこと、やってたんじゃないかって思われたらどうする?」

 俺の中で何かが弾けた。
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