あいつ~序章
 笑いながら俺の持っているスーツを取ろうとするあいつの腕を、俺は掴んだ。

 スーツが下に落ちたとき俺は奴を抱きすくめていた。
 あいつは驚いて俺の腕でもがいた。だが、俺はさらに強くあいつを引き寄せた。

 俺の鼻息があいつの髪にかかる。あいつの鼓動がどくんどくんと俺の胸に伝わってくる。あいつの汗の匂い、髪の匂い、熱い体温・・・
 俺の一物は再び硬くなった。今度は隠しようもない。あいつの下腹をつつく。
 なぜかあいつは何も言わない。時間よ止まれ。劇終と落胆よ来るな。

「・・・いつまでこうしてるんだよ?」
 あいつはやっと首を上げて俺を見た。目が眉が怒っている。どこかでこの顔を見た。奈良のどこかの寺の仏像の写真か何かだったか?
 俺はあいつの口を思わず吸った。
「だ、大介!な・・何をするんだ!変態!」
 口を付けた瞬間、あいつは俺の腕の中で身を捩って暴れだした。俺は逃すまいと腕を絞り、あいつの腰を引きつけた。もつれあって俺たちは倒れた。
 あいつは尻餅をつき、俺に足を向けて俺を近づけまいとした。俺は構わずよつんばいであいつを追った。

「く、来るな!来ると本気で蹴るよ!お前の内臓ぐらい軽く蹴破るぞ!」
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