ベイビーベイビーベイビー
普段 広告代理店に勤めている祥吾は、仕事を終えると、こうして一人暮らしをしている真理江の部屋を訪ね、真理江との一時を過ごしていた。
それは ほぼ毎日の事であったのであるが、しかしどんなに遅くなっても 泊まることはしなかった。
祥吾を見送った真理江が部屋に戻ると、まだ温かさの残る食器がテーブルに残されたままである。
真理江は立ったまま、じっとそれを見つめた。
どちらかといえば二人とも口数は少ない方で、共に過ごす時間は決して賑やかなものではない。
しかし祥吾が帰ってしまった後の部屋は、更に音を消す。
真理江はこの時間が、どんな時間よりも嫌いだった。
何度となく訪れるこの時間は、真理江の心に“虚無”という言葉を貼り付けた。